なぜCOAFの所属をめぐって激論になるか? ニッケイ新聞WEB版より

なぜCOAFの所属をめぐって激論になるのか? ニッケイ新聞WEB版より

  

2019年5月27日

モロ法相(Foto : Marcello Casal Jr./Agencia Brasil)

 

モロ法相(Foto : Marcello Casal Jr./Agencia Brasil)

 ボウソナロは連邦議会で負け続けている。一番象徴的なのが金融活動管理審議会(COAF)の所属に関する票決だ。
 モロ法相が「汚職撲滅のために法務省に絶対に必要」と希望しているのを尊重して、現状のままにする動きが与党側から何度出されても、ことごとくセントロン(中道議員による超党派の最大派閥)が野党PT議員らと結束して、もともと所属していた経済省に戻すというやり取りが繰り返されている。
 では、この「COAF」というのは一体どんな組織なのか。なぜ、どこに所属するかで活動が変わるのか?

知られざる精鋭部隊の実態

 

経済省(Foto: Geraldo Magela/Agencia Senado)経済省(Foto: Geraldo Magela/Agencia Senado)

 

 「COAF」はConselho de Controle de Atividades Financeirasという名前が示すように、不正な金融活動を監視するための機関だ。
 COAFサイトによれば、金融テロや資金洗浄を予防・撲滅するために、FHC大統領時代の1998年に財務省管轄で創設された。「不法金融活動の疑いがある動きを検知し、検査して、不正な蓄財や汚職・資金洗浄などの存在を明らかにすべく所轄機関に伝えて連携していく」などが活動内容とされる。
 よほど大きな組織かと思って調べたら、昨年12月現在でたった37人の小さな組織だった。だがラヴァ・ジャット作戦などで、大物政治家やペトロブロス社幹部職員、オデブレヒト社などの不正な資金の動きを指摘して強い存在感を示した。
 また昨年末には、ボウソナロ大統領の長男フラヴィオ上議の、リオ州議時代の職員ファブリシオ・ケイロス氏に関する汚職疑惑の件を検知し、リオ司法当局と連携して捜査を始めたことでも注目された。
 あの報道が汚職撲滅を旗印にしていたボウソナロ候補に大打撃を与えたことは間違いなく、当時SNS(インターネット)上ではボウソナロ親派が「ボウソナロがモロを法相にしたら、COAFに勤務して月給1万8千~6万1千レアルをもらうPT党員180人を首にする」というフェイクニュースが飛び交った。
 「高給取りのPT党員が反ボウソナロの活動の一環としてフラヴィオの件をでっち上げた」かのような印象操作をした形跡が伺えるフェイクニュースだ。
 だが、G1サイトの18年12月11日付虚報検証記事によれば、職員37人のうち18人が1万6千レアル以上だったが、残り19人はそれ以下。虚報とはまったく異なる実態だ。
 37人中、連邦警察・ブラジル銀行・CAIXAとの委託契約による専属職員が6人、一時契約職員が3人いる。おそらく、この9人が主にラヴァ・ジャットなどの特別捜査に関する金融情報の調査・提供を担当しているのではないか。
 日常業務と思われる部分には、経済省から13人の出向、企画省から3人、国庫庁(CGU)から2人、CAIXAから2人いる。他にエレトロノルチ、連警、中銀、Serpro(情報処理連邦サービス)からも1人ずつ。あとは10人が総務的職員だ。それに運転手、秘書、受付などの派遣職員が6人。たったこれだけ。
 ラヴァ・ジャット作戦が始まった2014年3月17日以来、ルーラ元大統領やエドアルド・クーニャ下院議長、ペトロブラス社長ら幹部、セルジオ・カブラルら元リオ州知事、南米最大級のゼネコン「オデブレヒト」社の社長と会長、ジョゼ・ジルセウやアントニオ・パロッシらPT幹部を逮捕した一連の捜査を底支えしたのは、前述の9人を中心とした少数精鋭のグループだった。
 もちろんCOAFだけの手柄ではない。だが汚職疑惑は以前からあったが、どれも捜査は進まず、ほとぼりが冷めたころにはお蔵入りになることの繰り返しだった。でも、LJ作戦がこれだけ深くまでメスを入れることができたのは、金融捜査が資金洗浄の実態を明らかにしたからだ。

今まで目隠しをさせられてきた金融捜査

 LJ作戦の報道を見ていて心底不思議なのは、会社員なら所得税申告(IR)で1レアル違っただけでも国税局から呼び出しを受けて説明を求められる。だが、汚職で流れている資金は最低でも100万レアル単位…。それなのに見逃されている点だ。
 たとえばテメル前大統領がLJ作戦で受けているのは、なんと総額180億レアル(約4889億円)の賄賂を受け取ったとされる疑惑だ。
 一般人にとっては一生拝むことすらない天文学的なお金を、国税局の目を逃れてどうやって動かすのか。もう、稀代の魔術師としか思えない手腕だ。
 逆にいえば、LJ作戦以前には、金融捜査がまったく機能していなかった証拠でもある。政治家が金融捜査をはばむことで、裏金を動かしやすい環境を維持してきた。その金融捜査の専門家が、もしも現状の10人程度から100人、1千人規模になったらどうなるか。
 ラヴァ・ジャット作戦を通してCOAFを高く評価していたモロ判事は、法相になると同時に暫定令によって法務省管轄に組み入れた。そして、何をしたかと言えば、大幅増員を始めたという。
 経済評論家カルロス・アルベルト・サルデンベルギ氏が23日にラジオCBNで、「モロはCOAFにターボを効かせた(出力を増加させる、パワーアップさせる)」と解説しているのを聞き、なるほどと納得した。
 具体的には予算を大幅増額して、人員を増やして設備を拡張したという。汚職政治家からすれば、今まで37人でも恐るべき仕事をしてきたのに、大幅増員されたら一体どうなってしまうのか…と恐怖にかられたことは間違いない。

経済省は懸案山積み、COAFどころじゃない

COAFのアントニオ・グスターボ・ロドリゲス会長(Foto: Agencia Brasil)COAFのアントニオ・グスターボ・ロドリゲス会長(Foto: Agencia Brasil)

 サルネンベルギ氏は、「だいたい、ゲデス経済相本人がCOAFは法務省にあるべきだと言っており、モロ法相はぜひ欲しいといっている。なのに、連邦議会が横やりをいれるのは実に奇妙だ。下議らの声にあるのは『もともと財務省にあったから』という建前論ばかり。たしかに経済省下にある国税局とCOAFの連携は重要だが、法務省との関係も同じくらい必要だ」と連邦議会の評決に反論する。
 さらに、「経済省にいってもCOAFを今までと同じ様に強化し続ければいいのでは?」とのアナウンサーの質問に答えて、サルデンベルギ氏は、「ただでさえ財務省は社会保障改革、税制改革、国立銀行を含めた公社民営化などの難問を山ほど抱えており、進展をみないで苦しんでいる。ゲデス経済相にとっては、そちらが最優先課題だし、最大のエネルギーを注ぎたい部分だ。それに省予算から言ってもCOAFに増額する余裕はない。その点、法務省にはCOAFに力を入れる予算も動機もある。それなら、そっちにやってほしいと考えるのは、当然のこと」と解説した。
 サルデンベルギ氏によればこのような事情から、COAFがモロ法相によって強化されて汚職捜査が進展する事を恐れる政治家たちが、経済省所属を主張しているようだ。
 当たり前のことだが、COAFはボウソナロ家にとっては両刃の剣だ。長男フラヴィオ上議の元議員秘書ケイロスを洗い出したように、PT時代、テメル時代と同じく、その鋭いメスは政権側にも向いている。(深)